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東京家庭裁判所 昭和40年(少イ)33号 判決 1966年2月25日

被告人 富田俊作

鵜沢富士子

伊藤弘夫

株式会社 こけし本店

右代表者代表取締役 富田留吉

主文

被告人富田俊作を懲役一〇月に、同鵜沢富士子を懲役八月に、同伊藤弘夫を懲役六月に、被告株式会社こけし本店を罰金四万円にそれぞれ処する。

但し、本裁判確定の日から三年間、右各懲役刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告会社は、東京都葛飾区下小松町七六九番地において、トルコ風呂「トルコジャスミン」を、同都台東区西浅草二丁目一番四号(旧浅草田島町七番地)において、トルコ風呂「東京トルコセンター」を経営しているものであり、被告人鵜沢富士子は、右「東京トルコセンター」の事実上の支配人として、また東京都台東区浅草新吉原京町二丁目二四番地所在トルコ風呂「春美トルコセンター」の経営者として、被告人富田俊作は、前記「トルコジャスミン」「東京トルコセンター」「春美トルコセンター」の総支配人として、被告人伊藤弘夫は、前記「春美トルコセンター」の副支配人として、それぞれトルコ嬢の採用、指導、監督等の業務に従事していたものである。而して右各トルコ風呂においては、トルコ嬢は、深夜または払暁に及ぶ営業時間中各営業所に待機した上、順番または客の指名によつて個々に客につき、各営業所内の個室において、水着または袖なしのブラウスにショートパンツという軽装で、全裸の客を入浴させ、身体を流し、マッサージをするなどのサービスを行なうのであるが、客の大部分は男であり(各店とも女客は一ヵ月に一名程度である)、多くの男客は、トルコ嬢に陰茎を手淫して貰う俗にスペシャルと称するサービスを要求するので、トルコ嬢においてもその求めに応じて、かかるサービスを行なうことが少くないばかりか、客の中にはそれ以上の性的行為や性交を要求する者が少からずある実情であるところ、被告人等は前記三店におけるトルコ嬢の業務の実態がかようなものであることを知悉しながら、法定の除外事由がないのに、

第一  被告人富田俊作は、被告会社の業務に関し、

一、別紙一覧表記載のとおり、昭和三九年七月中旬頃から同年一〇月中旬頃までの間、児童である○田○子(昭和二二年一月一二日生)外二名を、適切な年齢確認の措置を尽さず、前記「トルコジャスミン」のトルコ嬢として雇い入れ、右児童等を午後二時頃から翌午前二時頃までの営業時間中、前記のようなトルコ嬢の業務に従事させ、

二、昭和三九年二月初旬頃から同年三月初旬頃までの間、児童である○村○子(昭和二三年二月二四日生)を、適切な年齢確認の措置を尽さずに、前記「東京トルコセンター」のトルコ嬢として雇い入れ、右児童を午後一時頃から翌午前一時三〇分頃までの営業時間中、前記のようなトルコ嬢の業務に従事させ、

第二  被告人富田俊作同鵜沢富士子に共謀の上被告会社の業務に関し、昭和三九年五月初旬頃から同年五月下旬頃までの間児童である○森○○子(昭和二三年一月六日生)を適切な年齢確認の措置を尽さずに、前記「東京トルコセンター」のトルコ嬢として雇い入れ、右児童を午後一時頃から翌午前一時三〇分頃までの営業時間中、前記のようなトルコ嬢の業務に従事させ、

第三  被告人富田俊作同鵜沢富士子同伊藤弘夫に共謀の上、昭和三九年一〇月二〇日頃から同年一二月二〇日頃までの間、児童である○森○○子(昭和二三年一月六日生)を適切な年齢確認の措置を尽さずに、前記「春美トルコセンター」のトルコ嬢として雇い入れ、右児童を午後四時頃から翌午前六時頃までの営業時間中、前記のようなトルコ嬢の業務に従事させ、

第四  被告人富田俊作同伊藤弘夫は共謀の上、

一、昭和三九年一一月初旬頃から昭和四〇年三月下旬頃までの間、児童である○本○代(昭和二二年五月一六日生)を適切な年齢確認の措置を尽さずに、前記「春美トルコセンター」のトルコ嬢として雇い入れ、右児童を午後四時頃から翌午前六時頃までの営業時間中、前記のようなトルコ嬢の業務を従事させ、

二、昭和三九年一一月初旬頃から昭和四〇年一月一六日頃までの間、児童である○堀○子(昭和二二年一月一七日生)を適切な年齢確認の措置を尽さずに、前記「春美トルコセンター」のトルコ嬢として雇い入れ、右児童を午後四時頃から翌午前六時頃までの営業時間中、前記のようなトルコ嬢の業務に従事させ、

もつてそれぞれ、児童の心身に有害な影響を与える行為をさせる目的をもつて児童を自己の支配下においたものである。

(証拠の標目)

一、被告人富田俊作同鵜沢富士子同伊藤弘夫被告会社代表者富田留吉の当公廷における供述

一、被告人富田俊作の検察官に対する供述調書四通、司法警察員に対する供述調書七通

一、被告人鵜沢富士子の検察官に対する供述調書一通、司法警察員に対する供述調書二通

一、被告人伊藤弘夫の検察官に対する供述調書一通、司法警察員に対する供述調書六通

一、被告会社代表者富田留吉の検察官及び司法警察員に対する供述調書各一通

一、○木○子、○田○子、○森○○子(二通)の検察官に対する供述調書

一、岡○谷○子、○村○子の検察官に対する供述調書謄本

一、鈴木幸雄、○本○代(二通)、○堀○子(二通)、亀山親広、○森○○子(三通)の司法警察員に対する供述調書の外、

判示第一の一の事実については、

一、東京都葛飾区長小川孝之助作成の身上照会書回答

一、司法警察職員渡部雅子作成の報告書

一、筆頭者○田○郎の戸籍謄本

判示第一の二の事実については、

一、東京都渋谷区長斎藤清亮作成の身上照会書回答

判示第二、第三の事実については、

一、筆頭者○森○一の戸籍抄本

判示第四の一の事実については、

一、筆頭者○本○代の戸籍謄本

判示第四の二の事実については、

一、司法警察職員藤井幸子作成の報告書

(弁護人の主張に対する判断)

弁護人は、「本件トルコ嬢達にはトルコ風呂経営者である被告会社や被告人鵜沢富士子(以下被告会社等という)から一銭の給与も支払われておらず、被告会社等はトルコ嬢達にトルコ風呂の設備を使用させているに過ぎないのであり、一方トルコ嬢達の労務はもつぱら客に対して向けられ経営者に対する労務の提供がないなどの諸点に照らすと、被告会社等と本件各トルコ嬢との間には雇用関係は存在しないと考えられる。ところで児童福祉法第三四条一項九号違反の罪が成立するためには、児童を自己の支配下に置くことを要するものであり、児童を自己の支配下に置くとは、児童の意思を左右し得る状態に置くことをいうと解されるが、被告会社及び被告人等は既述のとおり、本件各トルコ嬢を雇い入れた事実はないし、いわんや前借金でトルコ嬢達をしばるなどということもなかつたのであり、トルコ嬢達の勤務は、その勤務期間が短期の者が多いことでもわかるように、やめたい時にはいつでもやめられる極めて自由なものであつたから、被告人等が本件各トルコ嬢を自己の支配下に置いたとは到底考えられない。また仮に被告人等について、児童福祉法第三四条第一項九号違反の罪が成立するとしても、被告会社代表者は、常に被告人等に対し児童を雇用しないように注意を与え監督していたのであるから、被告会社が処罰を受けるいわれはない。」と主張するので以下順次判断する。

本件において被告会社等と各トルコ嬢との間に雇用関係が成立するためには、トルコ嬢側の労務の提供と被告会社等からする報酬賃金の支払が欠くことのできない要件であることは弁護人主張のとおりである。しかし、労務の提供は必らずしも直接被告会社等に対するものである必要はないのであつて、被告会社等経営にかかるトルコ風呂に来店する客に対する前記のようなサービスが、とりもなおさず被告会社等に対する労務の提供である。一方トルコ嬢等は、被告会社等からは賃金の支払を受けていないけれども、被告会社等のトルコ風呂の設備を無償で利用し、客にサービスをすることによつてサービス料を得ているのであるから、本件の場合トルコ嬢の受ける報酬賃金は、サービス料収入を得るために被告会社等の営業設備を使用し得る利益であると解されるのであつて、被告会社等と各トルコ嬢との間の雇用関係の成立を妨げる事情は存しない。而して前掲各証拠によれば被告人等は被告会社等と各トルコ嬢との雇用関係に基づいて、経営者、総支配人、事実上の支配人或は副支配人としてそれぞれ、毎始業前点呼をとり、訓示をするなどしてトルコ嬢を指揮監督していたのであつて、特にトルコ嬢の無断欠勤や早退は厳しく規制され、一時期には違反者から罰金を徴した程であり、もとより勤務時間中の外出は禁止され、またトルコ嬢は順番または指名による客を自己の好みによつて選択する自由を与えられていないことが認められるので、被告人等が本件各トルコ嬢をその支配下に置いたものであることは明らかである。

もつとも、かようにトルコ嬢に対する被告人等の支配が雇用関係に基づくものであることから、本件は児童福祉法第三四条一項九号所定の除外事由である「児童に対する支配が正当な雇用関係に基づく」場合に該当しないかとの疑問を生ずるので、この点につき附言する。

児童福祉法第三四条一項九号にいわゆる正当な雇用関係とは、民法及び労働基準法等に照らして正当な雇用関係をいうものと解される。従つてたまたま労働基準法のなんらかの規定に違反したからといつて直ちに当該雇用関係が正当性を欠くものではないが、労働基準法に違反した結果雇用の本質を害するに至つた場合(例えば、強制労働、前借金、人身売買の禁止違反)、または当該雇用関係の内容が常に労働基準法に違反しなければ実現できないような場合には、一応有効な雇用関係があると認められる場合でも、正当性を欠くものと解すべきである。けだし、児童福祉法がその第三四条一項九号において「児童に対する支配が正当な雇用関係に基づく」場合を除外したのは、一応契約自由の原則に立ち、それぞれ問題の発生した都度労働基準法等関係法令に照らして法的解決をすれば足りるとしたものと解されるから、雇用関係を継続しながら右の手段によつて「児童の心身に有害な影響を与える行為」を防止し得る場合でなければ、これを本号の禁止規定から除外する実質的根拠を欠くのみならず、これを除外することは児童福祉法の趣旨にも沿わないと考えられるからである。ところで本件においては、被告会社等と各トルコ嬢との間に一応有効な雇用関係が成立しており、契約の成立及び存続について、人身売買類似の情況、強制労働前借金等被用者の自由意思を害するような事情はなく、雇用の本質を損う場合には当らないけれども、その業務の内容、執務の場所、態様は判示のとおりであつて明らかに労働基準法第六三条二項、四項女子年少者労働基準規則第八条第四五号に該当し、しかも本件雇用関係の内容を実現するためには常に右違反を犯さなければならないものであることが認められるから、本件は前記除外事由である「正当な雇用関係に基づく」ものとはいい難い。

次に、被告会社代表者の当公廷における供述によれば、被告会社代表者は被告人等に対し、児童をトルコ嬢として雇い入れないように注意を与えていたことは認められるけれども、被告人等の本件違反行為を防止するために監督を尽したとは到底認められない(むしろ、総支配人である被告人富田俊作にまかせきりであつたと認められる)から、この点に関する弁護人の主張は採用できない。

(法令の適用)

被告人富田俊作の判示各所為、同鵜沢富士子の判示第二、第三の所為、同伊藤弘夫の判示第三、第四の一、二の所為はいずれも児童福祉法第三四条一項九号第六〇条二項三項及び富田俊作の判示第一の一、二の所為を除き刑法第六〇条に各該当するので、いずれも所定刑中懲役刑を選択し、右はいずれも各被告人につき刑法第四五条前段の併合罪であるから、刑法第四七条第一〇条に則り、犯情の最も重い被告人富田俊作については判示第四の一の罪、同鵜沢富士子については判示第三の罪、同伊藤弘夫については判示第四の一の罪の刑にそれぞれ法定の加重をなし、その各刑期の範囲内で被告人富田俊作を懲役一〇月に、同鵜沢富士子を懲役八月に、同伊藤弘夫を懲役六月にそれぞれ処し、被告会社の判示第一の一、二及び第二の所為は児童福祉法第三四条一項九号、第六〇条二項三項四項に該当し、右は刑法第四五条前段の併合罪であるから同法第四八条二項に則り、各罪につき定められた罰金の合算額の範囲内において、被告会社を罰金四万円に処し、被告人三名については情状刑の執行を猶予するのを相当と認めるので刑法第二五条を適用して本裁判確定の日から三年間右各懲役刑の執行を猶予することとし、主文のとおり判決する。

(裁判官 篠清)

一覧表

番号

児童氏名

生年月日

稼働期間(頃)

服装

○田○子

昭和二二年一月一二日生

自 昭和三九年七月 中旬

至 昭和三九年八月 中旬

水着

○木○子

昭和二二年二月二〇日生

自 昭和三九年七月二〇日

至 昭和三九年八月 初旬

水着

岡○谷○子

昭和二二年七月二六日生

自 昭和三九年九月 中旬

至 昭和三九年一〇月中旬

水着又は袖

なしのブラ

ウスにシヨ

ートパンツ

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